日本で増えている腎臓の生活習慣病、慢性腎臓病(CKD)とは
慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)とは、腎機能の低下や蛋白尿などの腎障害が慢性的に続く状態のことで、日本では成人のおよそ8人に1人が当てはまると言われています。
慢性腎臓病を放置していると腎臓の機能は徐々に低下していき、最終的には腎機能が廃絶し、人工透析治療が必要になる場合があります。日本透析医学会の調査によると、2020年末時点では35万人近くの方が人工透析治療を受けており、その数は年々増加傾向にあります。
慢性腎臓病は糖尿病や高血圧症が原因となることが多く、早期発見と治療管理がとても大切です。また、生活習慣の改善により進行を予防することもできます。今回は、日本で増えている「腎臓の生活習慣病」慢性腎臓病について、解説していきます。
慢性腎臓病が体に与える影響とは?
腎臓は、体内にある老廃物や塩分、水分を尿として排泄する働きをしています。その他にも体内のカリウムやナトリウム濃度やイオンバランスの調整をしています。慢性腎臓病になると、これらの機能が低下するため、以下のような症状や合併症を引き起こします。
慢性腎臓病による自覚症状
☑ 疲労感、食欲不振
☑ 頭痛、めまい
☑ 息切れ、呼吸困難
☑ 体重増加や体の浮腫(むくみ)
☑ 尿量の減少
腎機能の低下が軽度の場合にはほとんど自覚症状はありませんが、慢性腎臓病の病状が悪化していくに連れてこのような症状は強くなっていきます。
慢性腎臓病が原因となる合併症
☑ 高血圧
☑ 高尿酸血症
☑ うっ血性心不全
☑ 電解質異常:低ナトリウム血症、高カリウム血症、高リン血症
☑ 腎性貧血
腎臓には赤血球を増加させるホルモン(エリスロポエチン)を分泌する機能がありますが、慢性腎臓病になるとこの機能が低下するため、貧血になります。
慢性腎臓病の原因
慢性腎臓病の原因には以下のようなものがあります。
また、過食、塩分摂取過多など不健康な食生活や、喫煙、アルコール、運動不足なども腎臓の疾患のリスクを高めることが知られています。
高血圧や糖尿病
高血圧が続くと、腎臓に負荷がかかります。また高血圧や糖尿病による動脈硬化が進行し、腎臓の血管が傷つくことで腎機能は低下していきます。
そして、糖尿病性腎症は透析に至る最も多い原因疾患です。高血糖状態が続くと糸球体が障害され蛋白尿が出るようになり、腎臓の機能が悪化していきます。
慢性糸球体腎炎
IgA腎症や膜性腎症など免疫の異常などで糸球体に炎症が起きる病気は、血尿やタンパク尿を持続させ、慢性腎臓病の原因となります。
遺伝的要因
比較的まれですが、多発性嚢胞腎やアルポート症候群など腎機能が低下する遺伝性の病気があります。また、高血圧や糖尿病など慢性腎臓病の原因となる病気には遺伝的要因があるため、慢性腎臓病の家族歴がある場合には生活習慣に注意が必要です。
その他の原因
腎臓に対する外傷、薬剤による腎機能障害、腎臓腫瘍、腎結石や繰り返す腎盂腎炎なども慢性腎臓病の原因になることがあります。
慢性腎臓病の予防方法
慢性腎臓病は進行性の病気であり、一度低下してしまった腎機能を回復させることは難しいのが現状です。そのため、予防がとても大切になります。以下のような事に注意するとよいでしょう。
健康的な生活を続ける
健康的な生活習慣を維持することは、慢性腎臓病の予防に有効です。食生活、適度な運動、禁煙、アルコールを適量にする、体重管理などを行うことで、慢性腎臓病のリスクを低減することができます。
こちらの記事で解説している生活習慣は高血圧や慢性腎臓病の予防におすすめです。↓
高血圧や糖尿病の予防と治療
高血圧や糖尿病は、慢性腎臓病の主な原因です。高血圧や糖尿病の予防には健康習慣が重要です。また、すでに高血圧症や糖尿病がある場合には、治療をしっかり継続して血圧や血糖を安定した状態にしておくことが大切です。
定期的な健康診断
定期的な健康診断を受けることは、慢性腎臓病を予防するためにはとても大切です。腎機能、血圧、糖尿病などを定期的にチェックすることで慢性腎臓病の早期発見に繋がったり、慢性腎臓病のリスクとなる病気を適切に管理することができます。
慢性腎臓病の検査・診断
慢性腎臓病の診断や治療管理には、以下のような検査を行います。
血液検査・尿検査
慢性腎臓病の診断には血液検査、尿検査が最も重要です。血液検査では、腎臓の機能を反映する指標として、血清クレアチニン、尿素窒素、eGFRなどが測定されます。尿検査では、尿蛋白や尿アルブミンの有無やその量、血尿などをチェックします。
画像検査
腹部CT検査や超音波検査などで、腎臓の大きさ、形状などを評価することができます。また、腎結石、腫瘍、血管障害など、腎機能低下の原因になっている病気がないかどうかをチェックすることもできます。
腎生検
糖尿病や高血圧症など、慢性腎臓病の原因がはっきりしない場合や、ネフローゼ症候群など慢性糸球体腎炎が疑われる場合には原因を特定するために腎生検が必要になる場合があります。
慢性腎臓病の治療
慢性腎臓病の治療の基本は生活習慣の改善です。肥満の方は体重を適切にコントロールしたり、適度な運動、禁煙、塩分摂取を減らすことが、病状の進行を防ぐためには重要です。その他には病状に応じて、腎臓病には以下のような治療があります。
薬物治療
糖尿病や高血圧がある場合には、血糖値や血圧をコントロールする治療が行われます。治療薬の中には、腎機能の低下を防ぐ効果があるものがあり選択されます。
透析治療
慢性腎臓病が進行し、腎臓の機能が極端に低下すると、心不全や尿毒症、電解質バランスの著しい異常がでるようになり、透析治療が必要になります。透析治療とは血液を人工的に浄化することで腎臓の機能の代わりをする治療で、余分な老廃物や電解質、水分を体外に排出します。
腎移植
腎臓の機能が廃絶してしまった場合には、透析治療の他にも腎臓を移植する治療があります。新しい腎臓を植えることで、腎臓の機能を回復させることができます。
治療方法は個人によって異なります。病気の進行具合、患者の体力、年齢、患者本人の希望などを考慮して、適切な治療方法を決める必要があります。
まとめ
最近、日本で増加傾向にあり問題となっている「慢性腎臓病」について解説しました。
慢性腎臓病は健康診断などで尿検査や血液検査を受けることが診断のきっかけになることが多いです。タンパク尿や腎機能の低下を指摘された場合には放置せずに、内科を受診して相談するようにしましょう。
また、高血圧や糖尿病を治療中の方は、生活習慣を改善し、血圧や血糖値をしっかりコントロールすることが、慢性腎臓病の予防や進行を防ぐために重要になります。
慢性腎臓病の治療や相談は当院でも行っておりますので、是非ご相談ください。
草津栗東みらい内科クリニック 院長 梅谷 俊介
・日本内科学会 総合内科専門医
・日本呼吸器学会 呼吸器専門医
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