生活習慣病で通院中の方や病気で療養中の方に健康によい食事について質問されることがあります。日々の診療では、患者さん個々の生活スタイルや体の状態によってアドバイスをしていますが、「万人に勧められる健康食は何か？」と聞かれれば、迷わず「地中海食です」と答えます。

地中海食とは

地中海食（Mediterranean Diet）とはイタリア、スペイン、ギリシャなど地中海沿岸諸国の伝統的な食事や食習慣の事を指します。
地中海沿岸ではオリーブの栽培が盛んで、温暖な気候から野菜やフルーツも手に入りやすく、魚介類も豊富にとれます。これらの食材を利用した豊かな食文化は健康食としても注目を集めています。
地中海食の健康への影響については数多くの研究がなされており、実際に様々な病気を予防する効果が証明されています。

地中海食の内容

地中海食にはいくつか定義がありますが、主には以下のような特徴があります。すべての要素を完璧に実践する必要はなく、好みに合いそうなものから取り入れていただくと健康に一歩近づくのではないかと思います。

☑ 野菜や果物をたくさん食べる

☑ ナッツや豆類をよく食べる

☑ 魚をよく食べる

☑ オリーブオイルを使用する

☑ チーズやヨーグルトなど発酵乳製品をよく食べる

☑ 食事と一緒に適量のワイン

☑ 精製穀物（白米など）よりも全粒穀物を食べる（玄米や全粒粉パンなど）

☑ 肉類はあまり食べない、加工肉や赤肉（牛肉や豚肉）よりも鶏肉を食べる

☑ 精製糖類を使ったスイーツやジュースはなるべく避ける

地中海食の健康効果

地中海食の健康効果については多くの研究がなされており、最も確実なエビデンスのある健康食と言えます。例えば、以下のような効果が報告されています。

☑ 心血管病のリスクを減らす1)

☑ 脳卒中、うつ、認知症を減らす2)

☑ 大腸がんなど様々ながんのリスクを減らす3)

☑ 血中コレステロールの改善、糖尿病の発症を減らす4）

1)N Engl J Med 2018; 378:e349
2)Ann Neurol 2013;74:580–591
3)Nutrients 2017, 9(10), 1063
4)BMJ Open 2015;5:e008222

なぜ地中海食が健康によいのか

地中海食の特徴は健康的な栄養素を豊富に摂取することができることです。また肉類（赤肉や加工肉）や糖類（砂糖やジュースなど）の摂取が少ないことも健康によい点だと考えられています。

ヘルシーな脂質を摂取する。

魚に含まれるオメガ３脂肪酸や、オリーブオイルの主成分である不飽和脂肪酸は血中脂質や動脈硬化を予防する効果があります。逆に、地中海食ではあまり使用されない牛肉や豚肉などに含まれる飽和脂肪酸は動脈硬化のリスクとなります。

食物繊維やビタミン、ミネラルが豊富

地中海食は野菜や果物などをたくさん使用するため、ビタミン、ミネラル、食物繊維を十分に摂取できます。また全粒穀物、ナッツや豆類にも食物繊維が豊富に含まれています。

健康によいタンパク質を摂取する

牛肉や豚肉などの加工肉を過剰に摂取すると心血管病、がんのリスクが高くなることが知られています。地中海食では赤肉はあまり摂取せず、乳製品、鶏肉、魚介類や豆類など健康的な食材からタンパク質を多く摂取します。

和食も健康食

地中海食について解説していきましたが、みなさんご存じのとおり、伝統的な和食も代表的な健康食の一つと考えられています。

和食と地中海食を比較してみると共通点が結構あります。たとえば、魚をよく食べる事、納豆や豆腐などの大豆製品が豊富なこと、野菜も季節によって種類が豊富なことなどは地中海食と共通した特徴と言えます。ごま油やサラダ油などヘルシーな植物性油脂もよく使用されています。

フレッシュな果物をよく食べるようにする、チーズやヨーグルトなどを食べるようにするなどの地中海食の要素を和食に取り入れるとさらに健康的な食生活になるでしょう。

最後に

健康のために食生活を改善したいと相談されることがよくあります。「痩せるためにお米を食べないようにします」「甘いものは一切止めます」と言われることもあります。このように極端に食生活を変えることは、健康に良いのかという問題もありますが、まず続けるのが難しいことも問題です。

地中海食の一番いい点は、美味しく無理なく続けやすいことだと思います。甘いものが欲しくなれば果物を食べるのも良いですし、小腹が空いたらナッツをつまむのもいいでしょう。また地中海食のすべての要素を守る必要もなく、できそうな事から、好みに合うものから実践していけることも良い点です。

みなさんも日々の食生活に地中海食の特徴を取り入れ、より健康的な生活に近づいていただければ幸いです。

草津栗東みらい内科クリニック　院長　梅谷 俊介
・日本内科学会　総合内科専門医
・日本呼吸器学会　呼吸器専門医