糖尿病を予防するための食生活について
「糖尿病の家系だから、自分も発症するのではないか不安…」
「健診で糖尿病の数値が高めだったので食事に気をつけたい…」
糖尿病は血糖値が高い状態が続く病気であり、日本では6人に1人が糖尿病やその予備軍と言われています。糖尿病を放置していると、腎不全や失明の原因になったり、動脈硬化を進行させ、心臓病や脳梗塞などの重大な病気に繋がることがあります。
糖尿病の発症には遺伝的要因に加えて、肥満や運動不足、食生活の乱れが発症に深くかかわっているため、食生活に気を付けることはとても大切です。そこで今回は糖尿病の発症を予防するための食生活について解説していきます。
バランスの良い食生活って何?
糖尿病を予防するためには、「バランスの良い食事が大切だ」と、よく言われます。
しかし、日々の診療から感じるのは、人によって「バランスがいい」と思う食事は結構バラバラだということです。
そこでまずは、食事のバランスについて、解説していこうと思います。
理想のバランスはハーバード大学監修『健康的な食事プレート』
理想の食事バランスについては、ハーバード公衆衛生大学院の栄養学専門家によって作成された、Healthy Eating Plate(健康的な食事プレート)に記載されています。
【Copyright © 2011 Harvard University. 健康的な食事プレートについてのさらに詳しい情報は、ハーバード公衆衛生大学院栄養学部の栄養ソース(The Nutrition Source)、 http://www.thenutritionsource.org とハーバードヘルス出版、 health.harvard.edu を参照してください】
これまでの様々な研究結果から、
☑ 野菜と果物を全体の1/2
☑ 穀物類(米やパン、麺など)を 1/4
☑ タンパク質(肉や魚、豆類など)を1/4
とすると、バランスの取れた食事となり、糖尿病の予防にも役立つと考えられます。
野菜と果物をふんだんに摂取することで、摂取カロリーを抑えながら満腹感も得られます。また、主食を摂りすぎることなく、タンパク質などの必要な栄養素も確保できます。
『健康的な食事プレート』についてはこちらの記事も参考にしてみてください。
糖質制限は糖尿病の予防に役立つか?
ダイエットの方法として、糖質制限は流行っています。糖質を制限することを「バランスがいい」と思っている人も多いと感じますし、企業やメディアが糖質制限を健康によい習慣であるかのように取り上げているのもよく目にします。
確かに糖質の摂りすぎは肥満につながり糖尿病のリスクを高めますが、意外な事に糖質制限を続けていても糖尿病を予防できるエビデンス(証拠)はありません。
極端な糖質制限ダイエットには弊害も多く
☑ エネルギー不足状態が続くと、血糖値が『上がりやすく』なる
☑ 筋肉量が減ってしまう
☑ 体重が増えやすくなる(リバウンドしやすくなる)
☑ 食事に満足しにくく続けられない
というデメリットがあります。
そのため、糖質摂取は摂りすぎも制限しすぎも良くありません。具体的には摂取カロリーの50〜60%を糖質からとることが最も健康によいと考えられています。
食品によって糖尿病のリスクは変わる?
これまでの様々な研究結果から、日常的にどのような食品を摂取する人に糖尿病が多いか、あるいは少ないかというのはある程度判明しています。
そこで、糖尿病のリスクを上げたり下げたりする食品を以下の論文から紹介してみようと思います。
参考:Eur J Epidemiol 2017;32:363-75.
BMJ 2019;366:l2368
糖尿病のリスクを減らす食品
☑ 全粒穀物、玄米
☑ 野菜
☑ 果物
全粒粉、オートミール、玄米などの全粒穀物や野菜、果物を多く摂取する人は糖尿病になりにくいことが分かっています。これらの食品には食物繊維やビタミン・ミネラル類が豊富に含まれています。摂取カロリーの割に満腹感や満足感を得られやすく、食べ過ぎや肥満を予防することができます。
糖尿病のリスクを増やす食品
☑ 赤肉(牛肉や豚肉など)
☑ 加工肉
☑ 精製穀物、白米
☑ 加糖飲料(ジュース)
☑ フライドポテト
牛肉や豚肉などの赤肉(Red meat)やその加工肉を多く摂取する人は糖尿病になりやすいことが分かっています。なぜ赤肉の摂取が糖尿病の発症に影響するかは十分には解明されていませんが、これらの食品には脂肪分が多いことや、赤肉に含まれる成分が酸化ストレスや炎症を引き起こし血糖値が上がりやすくなるのではないかと考えられています。
また、白米や白い小麦粉などの精製穀物は、食後に血糖値が上がりやすい特徴があります。白米をときどき玄米に置き換える、麦ごはんにする、全粒粉を使用した製品を選ぶとよいでしょう。また、フライドポテトやジュースを習慣的に摂取する人は糖尿病になりやすいことが分かっているので注意しましょう。
長期間の食生活の積み重ねがリスクになる
糖尿病になりにくい食事バランスや食品の選び方について説明してきましたが、ここで注意しておきたいのは、「少なくとも数年以上の長期間の食事が、糖尿病の発症に影響を与える」ということです。なので、「今日焼き肉(赤肉)を食べ過ぎたから、糖尿病になるかもしれない」「最近ちょっとジュースを飲み過ぎたから糖尿病になった」という事はまず有り得ないと言えます。
「糖尿病になりたくないから、○○は食べないようにします。我慢します。」というのも、考えものです。我慢がストレスになってしまうのも良くありませんし、我慢は続かないものです。
「焼き肉は好きだけれど、毎週食べるのは良くないみたいだから、ご褒美の時だけにしよう。」「毎日ジュースを飲むのは良くないから、普段はお茶にしておこう。」くらいが、ちょうど良いかもしれません。
地中海食も糖尿病予防におすすめ
地中海食(Mediterranean Diet)とはイタリア、スペインなど地中海沿岸諸国の伝統的な食事や食習慣の事を指します。地中海食には以下のような特徴があり、糖尿病の予防にも効果があります。
☑ 野菜や果物をたくさん食べる
☑ ナッツや豆類をよく食べる
☑ 魚をよく食べる
☑ オリーブオイルを使用する
☑ 精製穀物(白米など)よりも全粒穀物を食べる(玄米や全粒粉パンなど)
☑ 肉類はあまり食べない、加工肉や赤肉(牛肉や豚肉)よりも鶏肉を食べる
地中海食の大事な特徴は「美味しい」という事です。糖尿病を予防するためには「習慣にして長く続けること」が必要ですが、地中海食は美味しいので満足感があり無理なく続けられます。
また、地中海食は糖尿病以外にも心臓病やがん、認知症など様々な病気の予防に役立つ健康食です。詳しくはこちらの記事も参考にしてみてください。
まとめ
糖尿病を予防するための食生活について解説してみました。
まとめると以下の通りです。
☑ 極端な糖質制限はせずにバランスよく食べる。
☑ 野菜や果物をしっかり摂る。
☑ 全粒穀物を摂る。
☑ 牛肉や豚肉は少なめ。
☑ 加糖飲料やフライドポテトは控える。
☑ 我慢は禁物、楽しく続けられるスタイルを身につけよう
今回紹介した食生活は糖尿病の予防だけでなく、すでに糖尿病を治療されている方の療養食としても最適ですので是非参考にしてみてください。
草津栗東みらい内科クリニック 院長 梅谷 俊介
・日本内科学会 総合内科専門医
・日本呼吸器学会 呼吸器専門医